小さな祠のグルラカンが村とゴンパを見守っていた
隣の小さな村への観光
ピャンというところへ行ってみることにした。レーからは山を挟んで隣の村。だが、山を完全に回り込まなければ行けないため、思ったよりも道のりは遠かった。
世の常と季節の常
冬のピャンゴンパは、来訪者など皆無で、床から寒気が伝わってくる。だが、目の前の仏様は、いつもと変わらない表情で私を見ているのだった。
窓際の輝き
窓際に祭壇があり、仏像と経典が納められていた。塗り直した後なのか、朱色がとても美しく、冬の頼りない太陽の中でも、きらきらと輝いていた。
荘厳な光と静かな声
しばらく仏像に見とれていると、僧侶が現れ、「次の場所を見てみますか」と誘ってくれた。後光が射し、包み込まれているような気分になった。
大いなる感謝を胸に
今いたお堂の鍵を閉める。冬のラダックのゴンパ巡りでは、僧侶が鍵を開け閉めしてくれることが多い。ただ、私のためだけに開け閉めしてくれているのだという現実は、ただの観光客とはいえ気が引き締まる。大きな感謝が体を駆け巡る。
ピャンゴンパ本堂へ
ピャンゴンパの構造は少し複雑である。先ほどまでいた部屋がてっきり本堂かと思っていたが、それよりも天井が高い建物=本堂が姿を現した。
ラダッキとして
レーに住むリンチェンという友人とバイクを二人乗りしてやってきたピャンゴンパ。これまでリンチェンは「写真を撮る?」など、裏方として気が利いていたのだが、ピャンゴンパの本堂を前に、思わず体が前に出る。ラダッキの神様なのだから、先に入るといいよ、リンチェン。
緑青朱橙紺
本堂の中に入ると鮮やかな仏画が出迎えてくれる。これまで触れ合ったラダッキの優しさが心の中に生きているので、「よく来なすった」と歓迎してくれているように思えてくる。ありがとう、ラダック。ありがとう、ピャン。
零下の堂内
本堂は、高く広かった。炎の色をした柱に天井が支えられ、壁面には仏教の世界観が画かれている。凛とした空気が堂内を包み込む。
落ち着く定点
柱のそばに曼荼羅とご本尊と、チョルテンがあった。広く吹き抜けのピャンゴンパの中で、ここがもしかすると落ち着く定点なのかもしれない。
直線と曲線
ゴンパの壁は、土でできているため、近代構造物のような直線は一切ない。平滑な壁面に仏像が描かれる時は、時代が進んでも来てほしくないと思うのだ。平面の無限性でなく、曲面の無限性こそが仏教の教えに近い気がする。
意外性と活性化
さまざまな仏画が描かれているが、観光客としての仏教のおもしろさは、この図柄の突拍子もないところにあるとも思える。とにかく仏教世界は、目で見て脳が働くということも大変趣き深い。
グル・ラカン
ピャンゴンパから少し北へ行くと、グル・ラカンという小さな祠があった。近くの農家で「グル・ラカンはどこ?」と聞くと、ちょうどその人が祠の鍵を持っていて案内してくれるという。小山を5分ほど登り、「さ、中へどうぞ」と招かれると、3体の仏像が並んでいた。
グル・ラカンのご本尊
近づいてよく見てみる。両脇の柱には経文が掛かり、3対の仏像の前には仏具が所狭しと並んでいた。
普遍の体現
たまに来る修行者と観光客を、いつも変わらず出迎えてくれるグル・ラカンの3体の仏像。「普遍」という言葉の意味が少し分かった気がした。
時空
仏像の脇に経文と石が置かれていた。いつの時代のものだろう?ラダックのものだろうか?チベットのものだろうか?長くピャンの地で大切にされてきたことは間違いない。
一所
仏像と目が合った気がした。問いかけられている気がした。「一生懸命生きます」ただの旅人からの精一杯の返答をした。
ただ、ありがとう
「そんなに気に入ったか」と農家のおじさんに言われた。確かにこのグル・ラカンは小さくて果無いかもしれないけど、美しく力強い。仏教の教えに近い暮らしをしていない私たちは、これくらい小さな祠を巡ると、まだ何か見えてくるのかもしれない。
部屋の中央には
鍵の持ち主のおじさんに「寒いだろう。よくこんなところまで来たな。ちょっとウチに寄っていったらいいよ」と言われたため、お呼ばれ。ブカリという名の薪ストーブが部屋を暖めていた。
おもてなしの心に
薪をさらに追加して、おじさんとリンチェンとお茶を飲む。グルラカンを見せていただいた謝意と、おもてなしの気持ちに触れ、お布施を渡して帰ることにした。
インダス川沿いの人の声
帰り道、薄暗くなったインダス川沿いをバイクで走っていると、人の声がする。何をやっているのかと近づいてみた。
時が止まる
振り返ると、インダス川が凍り付き、空の光を反射していた。明日まで、ラダックは夜間の眠りにつく。その寸前、風がやんで一瞬の静寂が訪れた。
凍結したインダス川
後ろを見たり、横を見たり、景色に見とれていると、足下でバキッと音がした。完全に凍ったインダス川が広がっていた。
夕食前の楽しい時間
やっと声がした場所にたどり着くことができた。どうやらスケートを楽しんでいるようだ。子どもたちが6名、大人が1名。聞けば、よくここに遊びにくるらしい。
夕暮れご当地競技
外国人が来たからか、いいところを見せようとアイスホッケーのスティックをどこからか持ち出してきた。スケート靴を持っている子も持っていない子も必死に追いかける。気が付けば夜になっているのだった。