肩を寄せ合い、力強く生きるザンスカールの日々
ツァンパのランチ
チャダルをガイドしてくれたスタンジンの親戚の家を訪れた。ちょうど食事の時間でツァンパをいただいた。ツァンパはいわゆる麦焦がし。お湯をちょっとずつ入れて、団子のようにして食べる。
冬を越す穴蔵
寒さを防ぐために、窓は閉じきっているため、とても暗い。家の中には大家族がいるが、目を凝らさないとどこに誰がいるかも分からない。
冬のヒマラヤ宿事情
スタンジンの家も使えたのだが、ハフタルビューというゲストハウスに身を寄せることにした。レストランは近所にないので食事付き。氷点下30度になるが、暖房は付いていない。
ネパールからの労働者
ゲストハウスにいたのはアジャイというネパール人。出稼ぎでザンスカールに来ているという。たった一人で宿を切り盛りしているが、チャダルで外国人が来た時だけ働けばよいらしい。そりゃ、そうか。
用さえ足せればそれでいい
トイレに案内された。鉄パイプの骨組みに布を張っただけの小さなスペースに穴が空いて用を足す。ラダックのトイレに期待はしていなかったが、これには驚いた。夜にもよおしたくないものだ。
雪の日
雪雲がどんどんわいてきた。こうなると、いつ大雪が降るか分からない。散歩していて遭難するのもドジなので、近所と部屋をうろうろするだけで1日が終わる。
この道はどこに続くのか
振り返ったが、白いモヤがかかって向こうは見えない。氷点下の中、人っ子一人もおらず、風だけが轟々と音を立てて通り過ぎてゆく。日本の都市に慣れきった体に、自然が襲いかかる。
紫の夕景
夕方、信じられないほどの勢いで雲が去っていった。気付けば快晴の夕暮れ。さっきまでの鬱憤を晴らすように、空が真紫色に包まれた。太陽があった方角だけぼうっと白く光っていた。
宇宙とつながる夕焼け
夜の闇に至る前、一瞬だけ赤みを帯びた紫色に空が変化した。月並みだが、私は「この空を一生忘れない」と思った。
暗闇に浮かぶ雪山
夜がやって来た。夕焼けをずっと眺めていたからか、それともここの夕焼けが特殊だからか、まだ微細に残った光だけで、雪を抱いた山々がなんとなく見えた。
限られた灯りを使って
足の底からマイナス20℃の冷気が体を駆け上ってくる。しびれる寒さを振り払うように宿のキッチンへと駆け込んだ。「アジャイ、何か作って」と言うと、彼は無言で頷いた。
暖気を取る方法
出てきたのはライスの上に野菜煮が乗ったぶっかけご飯。限られた材料をローテーションで使うため、今日はこれで凌ぐらしい。温かいものと接することができる。それだけで美味しかった。ちなみに次の日はダル(豆カレー)だった。
寒さの色は水色
次の日、ピピティンへ散歩に行った帰りにパドゥムの村を散歩してみた。もう夕刻が近づいている。寒さのあまり、影の部分では空気の色が水色に見える。
開いたドアの中には
視線を感じたので立ち止まった。石積みの建物の中からこちらを見ている者がいる。声がするので近づいてみた。
生活に密着する店は開いていた
カンカンと音がする。なんと、靴屋が靴を修理していた。お客さんは偶然にも、宿のスタッフのアジャイ。これ幸いとザンスカールの靴屋と話し込んだ。
知恵を絞って道具を使う
食材と同じく、さまざまな物質が不足している冬のザンスカール。靴屋の修理工具も同じで、裁縫用の鋏を使ったり、建築現場用の釘を使って靴を直している。
寒く滑る靴底
ただ、靴底だけは代用が利かないので大量に在庫を持っていた。安いゴムの靴底。どうして寒くないのか、どうして滑らないのか。尋ねてみると「滑るよ、寒いよ」とのことだった。寒いはずのものが寒くない、私の靴は贅沢なのだとうことを知らされた。
靴墨の真の効果
それでも、ザンスカールの男にとってオシャレは必要なものらしい。天使のイラストが描かれた靴墨が置かれていた。きれいに見えることはもちろんだが、雪や氷がくっつきにくくなり、微細な穴が埋まるため、ちょっとでも温かくなるらしい。
固定風景
靴屋と同じ場所に座って外を眺めてみた。日本人にとっては、美しい大自然、美しい夕景、寒すぎる気温…。いろんなことを考えてしまうが、当人たちは寒くて退屈な場所だと言った。仕事人として眼前に写る景色を変えたくてたまらないという。
あなたのところ、どう?
寒空の下、おばさんたちが立ち話をしていた。買い物の帰りだという。どこかで見た風景。そう、おばちゃんの立ち話はマイナス20℃でも活発に飛び交うものなのだ。
寒空の子どもたち
「ねぇ、僕たちも撮ってよ」。寒い中、子どもたちが寄ってきた。凍るような空気の中、鼻水を垂らしながらの精一杯の笑顔。
ジュレーという言葉
子どもたちと話していると、さっき立ち話をしていたおばちゃんが「ジュレー」と挨拶をしてくれて立ち去っていった。ラダックやザンスカールでは、ジュレーで始まりジュレーで終わるのが慣習だ。
年齢ごとの世界観
どこに住んでいるの?と聞くと、すぐそこだよ、と返ってきた。この子どもたちは、チャダルを行ったことがあるのだろうか。この子たちが5月のデリーに行ったらどれくらい暑いと思うのだろうか。
人気者になる
今日はたくさんの人と出会う。今度は女の子たちが「カメラ持ってるよ〜、この人」という感じで走り寄ってきた。
大人を目指す
カメラの撮影場所で、自分の写り方が大きく変わることがおもしろいらしく、「下から撮って」とオーダーされた。いつも大人を見上げているので、大人になりたかったのだろうか。
今日集まった人と
しゃがんだり、手を伸ばして写真を撮っていると、すぐに人が集まってくる。この日、この時、この場所だけの出会いなんだね、これって。
日の射す明日へ
ひととおり撮影が終わると、子どもたちは広場に駆けていった。見たことがないほどの日なたと日影のコントラスト。太陽は明日もやってくる。
夜の気配
透明な水色の空気があたりに立ちこめている。マイナス20℃を超す寒さと星降る夜が、またやってくる。家の中では女たちが食事の準備をしているのだ。煙突から出てくる湯気は一瞬で凍り付き、消えてゆく。
一喜一憂に包まれる
村で唯一のギャンブル場へやって来た。小学生の時に消しゴムでやった、机の穴に相手の駒を落とすという遊び。パチンコも競馬もない場所の、男たちの遊びである。
冬の建築現場
帰り道、夕焼けが今日もやってきた。でも、昨日ともその前とも違う、きれいなサーモンピンクの空だった。目の前には建築途中の家が放置されている。また今夏に建築再開するのだろう。
明日への地平線
明日の天気はどうなのだろう。明日はどんな日になるのだろう。夕焼けは、今日の振り返りと、明日への期待を共有する狭間の時間。
直射日光の快楽
見事に晴れた。雪山がキリリと映える濃紺の空と直射日光。寒くても構わない。こんな日は出掛けたくなるものさ。
無音の風景画
まだ朝が早いからか、誰も歩いていない。しばらくの時間だけど、この景色を独占させてもらった。風もないパドゥムの中心地で、一人だけの時間を楽しむ。
今日の可能性
振り返っても一人。雪の日に、あれだけ寂しげだった風景が嘘のように元気に見える。いまから何か起こるんじゃないか、小さな村でそんな気持ちになる。
退官
いままで行ったことがない方向に散歩してみた。すると廃棄されたヘリコプターが落ちていた。
再利用のオブジェ
計器類は残っているが、窓ガラスなどは一切はずされている。ガラスの破片などが周囲にないところを見ると、寒さ対策のために住民が持ち帰ったのだろう。
歴史なのか現代なのか
このヘリは、おそらくカシミール紛争で、たくさんの兵士を乗せてパキスタンとの戦場に突っ込んでいったはずである。何を守るため?ヘリは僕の質問に黙って微笑むだけなのだった。
誰もが親しむ国技
ヘリの近くの軍用空港でクリケットをやっていた。歩行者がいなかったのは、クリケットがあったから?住民とインド軍兵士の試合、プレイボール。
カーネルがボールを投げた
カーネルは、それまでも偉そうな態度で周囲に接していた。貸せ、おれが投げる。そして、ボールは放たれた。
住民の飛球
ザンスカール住民が大きな大きな飛球を打った。明らかにショックのカーネル。日頃は逆らえない軍関係者にも、クリケットでなら住民は勝てる。パドゥムの滞在は、特殊でもあり、日常でもある、ヒマラヤ山中の民に出会う旅だったのだ。